Leave a comment

「やさしい絵の描き方:略画の絵手本」

「僕、タンクを描きたいんだが、うまく描けないや、お母さん、タンクを描いて…」(「やさしい絵の描き方」1943 )

明治以降日本では良妻賢母が婦人の理想像として掲げられましたが、戦時中の「賢い母」は兵隊や戦闘機の絵を描くことが要されたのでしょうか。今日は母の日にちなんで、マデイー・ウィレットさんの記事を紹介します。2023年秋学期プランジ文庫でインターンとして働き、児童書コレクションにある絵手本についてリサーチを行いました。優れた日本語能力とグラフィック・アートの経験を生かし、説明の文章を翻訳し実際手本に習い絵を描いてみました。二回にわたるプログ・ポストの第二部は「やさしい絵の描き方:略画の絵手本」(1943)を検閲の視点から見ていきます。

プランゲ文庫のインターンシップでは検閲を研究したいとずっと思っていました。考えてみれば、検閲を通して民主主義、言論の自由などを広めるというミッションは偽善的で、アイディアとしてとても惹かれました。プランゲ文庫の児童書は全部デジタル化されているので、それを中心に検閲された資料を読みはじめた。驚くところではないかもしれませんが、興味のきっかけとなったのは小野寺秋風の「やさしい絵の描き方 : 略画の絵手本」でした。CCDに提出されたのはゲラ刷りではなく初版本で、奥付は二つあります。一つ目は初版本の奥付で発行年は昭和18(1943)になっていて、初版本は戦時中のものです。二つ目の奥付は手書きの再版するための奥付で、発行年は昭和21(1946)になっていて、初版本と発行所も違ってます。

Screen Shot 2024-05-13 at 6.02.58 AM

表1 初版本の奥付(左)と手書きの奥付(右)

これは「やさしい絵の描き方」の特徴です。まだ戦時中の日本なのでCCDの目のために書かれているのではなく、発行者側の自己検閲は全くありません。代わりに再販本のゲラにはCCDによる検閲が全体的に入っています。要するに児童書の検閲について、そして全面戦争の広がりを理解するためには、この本はベストではないかと私は思っています。

また、他のプラン下文庫の絵の描き方を教える本に比べると、「やさしい絵の描き方」は一番長く、総合的です。コピーするための略画の絵手本だけではなく、もっとうまく物事を描くようになるためのアドバイスも細かく書かれています。プランゲ文庫にある絵の描き方を教える本の中にこうしたアドバイスが稀で、全部を読んだ結果、「やさしい絵の描き方」のアドバイスが一番いいと思っています。

なので、二つの視点からこの本を見てみたいと思います。一つ目は美術的な視点(記事の第一回目)二つ目は歴史的な視点、両方の視点からみる必要があると思います。今回は歴史的な視点から見てみましょう。何が検閲されているのか?何が検閲されていないのか?そして、これによって、戦時と戦後の日本について何がわかることができるのか?

MaddyHeitai

最初の文から「タンク」という単語が出てくるので、「やさしい絵の書き方」は厳しく検閲されたことは驚きではないでしょう。削除の指示が書かれているメモ用紙が表紙に貼られています。注意すべきは、ページ全体が削除された場合はページ数が表に出ていないこと。はしがき、軍に関する略画ばかりである70ページから91ページまで、そして初版本の奥付の後にある絵も全部削除されています。

この本が重く検閲されたということが明らかです。「占領下の児童出版物とGHQの検閲」によると、出版された形跡はありません。でも表の中に、面白いものがたくさんあります。「防空」が「防火」になっているところが二つあって、この本のなかに防空のイメージが珍しくはないということがわかります。戦時中の状況の反映ではないでしょうか。「本当に検閲する必要があったの?」と思ってしまうところも複数あります。剣道と柔道は確かに軍と関係をもった武術ですが、必ずしも軍に関するものではありません。147ページで削除されている「ロケーション」もまた面白い。刀をもって侍を演じている役者たちが描かれているが、あくまでも演技で、侍そのものが削除に値するものだとは思えません。また面白いのは全部削除されているはしがきです:

表3 はしがき

はしがきの中心になっているのは小野寺秋風の誰でも絵を描けるようになるという希望です。が、戦争の影響がどこまで広まり子供の絵を描きたいという純粋な気持ちもタンクを描くのが前提になったことがわかります。最後の部分から陸軍省属の三人がこの本の出版に関わったことも明らかになりますが、ただ絵の描き方を教えるための本とすればあまりにも過激に見えます。これを通して、どれだけメディアが軍によって影響されていたのかわかります。はしがきの最後の文は「私は此書を置土産として、前線に最後の御奉公を捧げたく決心を致して居ります」になっています。幸いに、プランゲには小野寺の著書が15冊もあり、前線に行き戦争を生き抜いたことがわかります。はしがきがここまで戦争のことをにおわしているので、なぜCCDが削除を命じたかは明らかであるでしょう。

この例を鑑みて、「占領下の児童出版物とGHQの検閲」には「戦争に関わるものは全てが細かくチェックされている」と書かれています(p.254)。けれど、私にはそうだとは思えません。一つの理由は侍の絵の削除に出てくる矛盾。147ページの「ロケーション」が削除のためマークされていますが、「風俗いろいろ」という章に出てくる刀を振りかざしている武士の絵は3ページにも及ぶが、チェックされていない。検閲された漫画を研究した結果、「占領下の児童出版物とGHQの検閲」の著者は抜刀が問題になっていると推測してますが、「風俗いろいろ」の章には抜刀の武器もあるので削除されていない説明にはなりません。「ロケーション」との違いをしいて言うなら、「風俗いろいろ」の武士は単体で、「ロケーション」の武士は一つの絵に複数いるが、「やさしい絵の描き方」には他の検閲の矛盾が存在するので、説明としては成り立ちません。

検閲されていないのが信じられない部分は64・65頁の「略画の絵手本について」です。タイトルから分かる通りこれは「略画の絵手本」のはしがきです。全部が削除になっている戦争のイメージが書かれているページがこの部分にあります。「略画の絵手本について」はその数ページ前にあります。「大東亜共栄圏」という単語が書かれていますがこの2ページは全然マークされていません。

表4 略画の繪手本に就いて

戦争のことが明らかに書かれているので、CCDが検閲しないとは思えません。この二つのページに注意するところはいくつかあります。一つは自分が子供に教えた絵が「慰問画となって前線の兵隊さんを慰める」という信念。二つは皆が絵を描けるようになったら、絵は世界通用語になって、大東亜共栄圏の「文化工作建設の上に於いても裨益する」という希望。三つめは軍が目を通しているという承知。はしがきと「略画の絵手本について」が表している小野寺秋風の希望は野心的で武断的です。絵を教えることが夢ではなく、戦争の助けになるからこそそれは夢であると断言しています。この時期、出版物と美術は軍の支配下にあったので、どれだけ小野寺がこれを本当に信じていたかは明らかではありませんが、本にそう書かれていることには変りないのです。

しかし、こんなにも戦争のことを話しているなら、なぜ削除しなかったのか?「やさしい絵の描き方」では色んなものが細かく検閲されているので、CCDが「略画の絵手本について」をそのままにして本の出版を許したとは思えません。すると、二つの可能性があります。見過ごしてしまったか、わざと見逃したか。この二つのページがとなりにあるので、通読するときは見過ごしてしまうのはあり得たかもしれません。この本が再出版されないことを見越してわざと見逃したこともありえます。

本の検閲には、どちらの説明をも裏付ける証拠が見当たります。「風俗のいろいろ」に見られるような検閲の矛盾があるのは本の後半だけ。240-241ページにも検閲のミスがあります。削除の指示が書かれているメモ用紙には241ページに削除しなければならないものがあると書かれていますが、本でマークされている砲弾と魚雷は240ページにある。「占領下の児童出版物とGHQの検閲」によると、富士山と飛行機の絵が書かれているうちわを削除する必要があると書かれていますが、「やさしい絵の描き方」ではそう指示するマーキングはありません。こうした矛盾は後半だけにあるので、検閲者はこの本が出版するはずがないと気づいたことが推測できますが、メモ用紙には本全体の箇所が書かれていることから本全体を細かく検閲するつもりであったことも推測でます。検閲したところはあまりにも多いので、見過ごしてしまったところもあるのは仕方がないかもしれません。

何しろ、検閲された・されていないところを見ると、プランゲ文庫には滅多に見ない戦時中の日本の跡形が見えます。「やさしい絵の描き方」が書かれていた時期には、戦争の影響は全てに及んでいました。厳しく検閲されていることから、柔道でも剣道でも、戦争をにおわせるもの全部がタブーであったことがわかります。このようにプランゲ文庫の「やさしい絵の描き方」は二つの物語を伝えています。一つは戦争に囚われている国、一つはそれを忘れさせようとしていた外国。 (終わり)

参照:

Yasashi e no kakikata : ryakuga no e tehon / やさしい絵の描き方 : 略画の絵手本

Omoshiroi sugaku no ryakugacho dobutsu no maki / おもしろい数字の略画帳 動物の巻

Suketchi no kakikata / スケッチの描き方

占領下の子ども文化<1945~1949>ーメリーランド大学所蔵プランゲ文庫「村上コレクション」に探るー

谷暎子の「占領下の児童出版物とGHQの検閲」

Madeleine Willette_Fall2023 Madeleine Willette 美術史と日本語を専攻するメリーランド大学カレッジ・パークの在学生。只今京都大学へ留学中。

Leave a comment

プランゲ文庫児童書コレクションより:「やさしい絵の描き方:略画の絵手本」

Screen Shot 2024-05-05 at 4.58.31 PM

図1「やさしい絵の描き方」を手本としたマデイー・ウイレットによるデッサン

本日「子供の日」にちなんで、マドレーヌことマデイー・ウィレットさんの記事を紹介します。2023年秋学期、プランジ文庫でインターンとして働き、児童書コレクションにある絵手本についてリサーチを行いました。優れた日本語能力とグラフィック・アートの経験を生かし、説明の文章を翻訳し、実際手本に習い絵を描いてみました。三回にわたるプログ・ポストの一回目は本を美術的な視点から見ていきます。

Madeleine Willette_Fall2023
Madeleine Willette 美術史と日本語を専攻するメリーランド大学カレッジ・パークの在学生。只今京都大学へ留学中。
「やさしい絵の描き方 : 略画の絵手本」と初めて出会ったのは授業中でした。近現代日本美術史の授業で、戦後の日本を学ぶためにランゲ文庫を訪れました。その本には手榴弾、タンク、軍用機など、削除のためにマークされている絵がたくさんあり、私とクラスメートたちは半信半疑、面白がって見ていました。日本語が読める私ははしがきを読んでみてとてもびっくりしました。最初の文ではこう書かれています。

「僕、タンクを描きたいんだが、うまく描けないや、お母さん、タンクを描いて…」

これを読んで、「やさしい絵の描き方」は私の知らない日本の残物であると思いました。

軍国主義のテーマにも関わらず、「やさしい絵の描き方 : 略画の絵手本」は驚くほど総合的に絵の描き方を説明していて、プランゲ文庫にある絵の描き方を教える他の本の中でも目立ちます。最初は猿、車、人間、そしてはしがきに出てくるタンクなどの描き方を、簡単かつ段階的に説明しています。絵は、省略した形か線から成り立っていることを教えられます。この本の教育法も研究したいと思っていたので、その説明を見ていくつかの絵を描いてみました。その絵は上にあります。絵は結構素朴だけれど、説明がとても分かりやすいと思いました。こうしたステップ・バイ・ステップの説明は、「最新略画宝典」や「略画の描き方 小学校児童の練習用」など、プランゲ文庫にある他の本にもたまに見つけることができます。

小野寺秋風は主に漫画家とイラストレーターとして働いていたので、「面白い漫画の描き方」という部分もあります。文章も多く、書かれているアドバイスを絵に生かす例もあります。この部分は一番文章が細かく書かれている部分でもあります。始めに狸の写生画と漫画を例に、漫画のポイントは特徴の強調にあると説明されている。そのあと人の顔の描き方が説明されていて、顔の一般的な形、人によって目や鼻や口の形が違うこと、そして人を漫画に描くときはやはり特徴を強調しなければならないことが書いてあります。そのあと、表情のことをちょっと説明して、人によって表情も少し違うことが説明されています。棒人間をつかってポーズのやり方を説明して、終わりに動物、植物、乗り物を漫画に書くとき注意する点が書かれています。

私は小さい頃漫画家になるのが夢で、漫画の描き方についての本を全て読んで、ビデオもできるだけ見ました。なので、「やさしい絵の描き方」には一番大切にしてきたアドバイスの全部が書かれているのを見てとても嬉しかったです。子どもの頃読んでいた絵の描き方を教える本では技術的な説明はありましたが、理論は全然書かれていませんでした。なので、どうやって省略した形を使って「漫画スタイル」の人を描くのを学んだが、それをどうやって本当の漫画に生かすのか、などは学ぶことができませんでした。しかし「面白い漫画の描き方」では理論が中心になっています。段階的な描き方を教えず、表情を強調するのが大事ということ、ポーズの描き方と現実のものを漫画化する方法などの一般的なアドバイスが細かく書いてあります。子どもの時はどうしても人のポーズができませんでしたが、「やさしい絵の描き方」に書かれているテクニックを学んだらそれが変わりました。毎日絵を描いていたときは単体の人だけを描くためにこのテクニックを使っていましたが、「やさしい絵の描き方」の例にある棒人間の図の中で複数の人がいる絵や、馬を乗っている絵とかもあったので、描いてみました。結果はなかなか気に入りました。

図2「やさしい絵の描き方」を見て描いてみた絵

もちろん、「やさしい絵の描き方」の大半はこうした絵のアドバイスではなく、略画の絵手本ですが、この組み合わせこそがこの本の特徴でありプランゲ文庫所蔵の絵手本の中でも目立つ理由です。たいていは、あくまでも「絵の描きかた」についての本か、「略画の絵手本」の本かです。この組み合わせであるのは「やさしい絵の描き方」しかありません。それでも「おもしろい数字の略画帳 動物の巻」みたいな面白い本もあります。この本では数字を使った動物の絵が描かれています。それに、動物の下に英語の名前が書かれています。これは多分アメリカの影響だと思いますが、結構スペルミスがあって、ちょっと面白いと思いました。

図3 “Habibut”(halibut)や“Mandarin ducd” (duck)などスペル・ミス見られる「おもしろい数字の略画帳 動物の巻」


プランゲ文庫の絵手本の中で、「やさしい絵の描き方」以外に、絵の描き方についてきちんとしたアドバイスが書かれているのは一つしかなくて、それは「スケッチの描き方」です。「やさしい絵の描き方」には漫画や挿絵が中心になっているのに対して、「スケッチの描き方」は鉛筆スケッチが中心で、描く対象の形の省略、バランスある構図、シェーディングなどについて書かれています。中心は「スケッチ」なので、色のことはあまり書いていませんがが、最後のページには少しあります。これに対して、「やさしい絵の描き方」にはシェーディングや色の付け方は全然書かれていません。しかし全体的に言うと、「スケッチの描き方」の方が絵手本のところが少なく、アドバイスも狭くてページ数が少ないのです。

表8「スケッチの描き方」

著者曰く、「繪は難しいものだと言ふ觀念を捨てて、繪がやさしく、おもしろく自由自在に描けるやうになることをお祈りして序文と致します。」崇高なゴールと言えますが、細かく幅広い説明を通し、「やさしい絵の描きかた」はプランゲ文庫のどの絵手本より、私たちをその夢の実現に間違いなく近づけてくれます。

[第二部に続く]

Leave a comment

メリーランド大学のクラス訪問:「文学における原子爆弾と記憶」

メリーランド大学のMichele Mason教授が受け持つクラス(JAPN428)の学生さんたちが授業の一環としてプランゲ文庫を訪問しました。”The Atomic Bomb in Literature and Memory”と題された講義は以下のような概要です:

Course description: Study of declassified documents and commentary on the United States decision to use the bomb in 1945, the many ways Japanese writers have attempted to express their indescribable experiences in Hiroshima and Nagasaki, and the shaping of historical narratives and national identities in post-war Japan and the U.S. Taught in English.

プランゲ文庫室長であるジェンキンス加奈は、日本語が読めない学生を考慮し、漫画・絵本・カラー・スライドなど、視覚的アピールある資料を並べ解説を行いました。「Tokyo Fall of 1945」(DS-0906)などは、写真に日本語・英語のキャプションがついており、学生さんたちは興味しんしんでした。また貴重な一次文献を手に取る機会がめずらしく、やや緊張した様子の学生さんもいました。

Leave a comment

講演会のお知らせ: Stella Li (University of North Carolina, Chapel Hill)

Stella Li lunchtime zoom talk 20242024年5月6日(月)午後12時半から1時半、昨年度の20世紀ジャパン・リサーチ・アワードの受賞者であるStella Li氏(University of North Carolina, Chapel Hill)による講演会を開催いたします。講演会のタイトルは“Jazz Nation, Jazz Culture:”Jazz Discourse in Early Occupied Japan’s Mass Print Media です。

この講演会はオンラインで行われ、どなたでも参加できます。

Zoom Link: https://umd.zoom.us/j/8404739029?omn=91817058510

この講演会はメリーランド大学図書館と Nathan and Jeanette Miller Center for Historical Studies の共催です。

Leave a comment

出版物紹介:福井英一 【イガグリくん】英語版

Igaguri-fc

Igaguri: Young Judo Master by Fukui Eiichi
Includes in-depth essay by Ryan Holmberg “Fukui Eiichi and the Judo Manga Revolution.”Published by Bubbles Press:

THE ORIGINAL MARTIAL ARTS MANGA! Starring a young judo prodigy who is as virtuous as he is strong, Fukui Eiichi’s Igaguri (1952-54) marks the true beginning of dynamic martial arts and sports comics in Japan. For the first time in English, read the manga that revolutionized shonen manga, reignited interest in judo among Japanese kids, and drove god of manga Tezuka Osamu mad with jealousy. With a dojo-busting essay about Fukui’s life and Igaguri’s impact by award-winning historian and translator Ryan Holmberg, this edition is a must-have for all manga fans!

Trailblazer of postwar shonen manga, Fukui Eiichi was born in Tokyo in 1921. After a career as an animator during and after World War II, Fukui redefined how manga were drawn and written with his best-selling Igaguri for the magazine Adventure King. Due to poor health and overwork, he died suddenly at the height of his career at the age of 33, yet his influence continues to shape martial arts and sports comics to today.

352 Pages | B & W w/ color illustrations throughout essay | 7 1/2″ x 8″ “| French-flapped sofcover | heavy newsprint interior
ISBN: 9781737826422

Leave a comment

20世紀ジャパン・リサーチ・アワード(2024)の受賞者が決定しました

2020年の20世紀ジャパン・リサーチ・アワードは次の研究者に授与されました。おめでとうございます!

  • Suhyun Choi (Ph.D candidate, Columbia University) 研究テーマのタイトルは “Transnational Socialism and the Development of Realist Painting in Japan and North Korea, 1945-1980” です。
  • Eike Exner (Independent scholar) 研究テーマのタイトルは”A Comparative Study of Visual Influences Seen in Occupation-era Manga” です。

20世紀ジャパン・リサーチ・アワードはNathan and Jeanette Miller Center for Historical Studies と メリーランド大学図書館の共催で1999年に始まりました。この研究助成はプランゲ文庫及びメリーランド大学図書館東アジア資料室にて、占領期とその直後(1945~1960年)を研究される方を対象としています。

Leave a comment

学生 Madeleine Willette さんのプランゲ文庫における インターンシップ体験

Madeleine Willette_Fall2023

プランゲ文庫を初めて知ったのはメリーランド大学での最初の学期でした。2020年の秋で、コロナウイルスが流行っていたため、大学生活の始まりは実家の寝室でした。その時はJAPN407 “The Art of Translation”という授業を受けていて、一つの課題はプランゲ文庫にある漫画を翻訳することでした。その漫画のタイトルは今覚えていないけれど、歴史的仮名遣いで書かれていて難しく、英語に翻訳しにくい日本の物が沢山あったことはまだ覚えています。それにしても、この経験を通してどんな資料を翻訳できるのかもっと分かるようになって、この大切な文庫がある大学に通っていることはどれだけ幸運なのかも分かってきました。

ほかの授業でもプランゲ文庫を訪れる機会がありました。 連合国軍占領下の日本での検閲の歴史を学んで、自分の手で資料を触ったり読んだりすることも出来ました。訪れるたびに興味が湧いてきて、いずれインターンシップをやってみたいと思うようになりました。専攻は日本語と美術史なので、ピッタリでした。日本語を練習できて、日本の歴史について学べて、アーカイブでの仕事についても学べると思いました。実際この三つがインターンシップの目標となりました。

プランゲ文庫での最初の数か月の間は、法律加除式の本の整理を任されました。これらの本は紐で結ばれていて、法律が変わったり、増えたり、削除されたりしたら、本のページを変えられるようになっています。全部で150冊ぐらいあって、大体が都道府県で編成されていました。全部のタイトルや出版社が似ていたので、結構早く終わりました。なので、隣にあった資料の整理もちょっと始めることも出来ました。面白いことに、ほとんどがこの加除式の本に入れるためのページで、雑誌みたいな形で新しいページが出版されていたようです。

第二のプロジェクトは英語と日本語でブログのポストを書くことでした。トピックは何でもオーケーだったので、検閲について研究することにしました。最初は特に焦点を決めずに検閲されていた児童書をひたすら読んでみました。結局決めたのは「やさしい絵の描き方 : 略画の絵手本」を中心に、その本に見る検閲や戦時中の日本について研究することでした。この本は最初に出版されたのは戦時中で、戦後再出版するためにCDCへ提出されました。なので、戦時中の日本の文化が分かり、検閲の矛盾も見えてきます。あと、絵を教えるという目的も見事に実行できていて、それも中心にプログのポストを書いてみました。

研究も作文も思っていたより結構時間がかかってしまったので、プランゲ文庫での最後の日まで書いていましたが、結果はとても誇りに思っています。大事な一次資料を使って研究する機会にもなって、アカデミックな研究結果をカジュアルに発表する機会にもなりました。アルバイトでは結構翻訳をしていますが、「やさしい絵の描き方」に出てくる文も翻訳してみました。バイトでやっている翻訳と結構違っていて、とてもいい経験になりました。でも、一番良かったのは日本語のバージョンを書いたことでした。高校の時は留学生として一年間日本の学校に通っていましたが、作文を書くことは一度もなくて、作文のスキルをずっと心配していました。文法の全部が完璧なはずはないけれど、ブログのポストは日本語で書いたものの中で一番長くて、自信をつけることが出来ました。来学期は京都大学に留学して美術史を勉強するつもりなので、この経験はかけがえのないものでした。

プランゲ文庫で過ごした時間の成果を誇りに思っています。アーカイブで働き、研究する機会を持ち、ブログのポストを通して日本語の作文を書くことができました。プランゲ文庫のインターンシップの目標は日本語を練習すること、日本の歴史について学ぶこと、そしてアーカイブでの仕事について学ぶことでしたが、全部が達成できたと思います。

******

Madeleine こと ”マデイー” さんによる「やさしい絵の描き方 : 略画の絵手本」についての寄稿文は、今後プランゲ文庫のブログで紹介されます。どうぞお楽しみに。



Leave a comment

春季休暇に伴う休館のお知らせ (2024)

SocialMedia_Y295_3_1_49_1

“たのしい くさつみ” 幼年えほん (Prange Call No. Y295), 3/1/1949.

春季休暇に伴い当文庫は3月18日(月)から3月24日(日)まで休館致します。利用者の皆様にはご迷惑をおかけしますが、どうぞご了承ください。

このブログは3月下旬に再開いたします。

Leave a comment

寄贈資料の紹介: Donald H. Swann papers

IMG-3220新寄贈資料、Donald H. Swann Papersの紹介です。

ドナルド・スワン氏(Donald H. Swann)(1926-1964)は1944年~1946年、アメリカ陸軍に所属し、日本占領期間は東京と八戸に派遣されました。その間スワン氏は自分の家族に頻繁に写真や手紙を送り、日本での自分の生活や考えを共有しました。スワン氏の手紙類は、若いアメリカ兵士の正直な感情が見える、非常に貴重な資料群です。

Donald Swann Papersは、84枚の写真、135通の手紙、ポストカードなどで成り立ちます。このリンクから、資料群の詳しい情報をご覧いただけます。これらはホーンベイク図書館の閲覧室で利用に供されています。資料を閲覧希望の方は、こちらのフォームからご連絡ください。

Donald Swann Pappersは、Ann S. Matteson氏によってメリーランド大学図書館に寄贈されました。

Leave a comment

Notable Japanese Collections in North America Dashboard

Notable Japanese Collections in North America Dashboardというウェブサイトの紹介です。これは北米日本研究資料調整協議会(North American Coordinating Council on Japanese Library Resources (NCC)のメンバー数人が作成したウェブサイトです。元となったデータは、NCCのCooperative Collection Development Working Groupが集めたものです。

Screenshot 2023-03-09 212242

このウェブサイトの最大の特徴は、最初のページに北米アメリカの地図が掲載されており、各地のどの学術機関が、どのような日本研究関係の資料群を持っているのかが一目でわかることです。

Browse Collectionsというタブをクリックすると、キーワードや学術機関名などでも検索ができます。

また、Browse Collectionsページ右上にある”Featured Special Topics”サーチボックスのドロップダウンメニューに“Post-war Occupation (1945-1952)”という項目が作成されました。当文庫が所蔵するほとんどの寄贈資料群も既に掲載されています。また、他機関の占領期関係資料群もここで探すことができます。是非ご利用ください。