図1「やさしい絵の描き方」を手本としたマデイー・ウイレットによるデッサン
本日「子供の日」にちなんで、マドレーヌことマデイー・ウィレットさんの記事を紹介します。2023年秋学期、プランジ文庫でインターンとして働き、児童書コレクションにある絵手本についてリサーチを行いました。優れた日本語能力とグラフィック・アートの経験を生かし、説明の文章を翻訳し、実際手本に習い絵を描いてみました。二回にわたるプログ・ポストの一回目は本を美術的な視点から見ていきます。
「やさしい絵の描き方 : 略画の絵手本」と初めて出会ったのは授業中でした。近現代日本美術史の授業で、戦後の日本を学ぶためにランゲ文庫を訪れました。その本には手榴弾、タンク、軍用機など、削除のためにマークされている絵がたくさんあり、私とクラスメートたちは半信半疑、面白がって見ていました。日本語が読める私ははしがきを読んでみてとてもびっくりしました。最初の文ではこう書かれています。
「僕、タンクを描きたいんだが、うまく描けないや、お母さん、タンクを描いて…」
これを読んで、「やさしい絵の描き方」は私の知らない日本の残物であると思いました。
軍国主義のテーマにも関わらず、「やさしい絵の描き方 : 略画の絵手本」は驚くほど総合的に絵の描き方を説明していて、プランゲ文庫にある絵の描き方を教える他の本の中でも目立ちます。最初は猿、車、人間、そしてはしがきに出てくるタンクなどの描き方を、簡単かつ段階的に説明しています。絵は、省略した形か線から成り立っていることを教えられます。この本の教育法も研究したいと思っていたので、その説明を見ていくつかの絵を描いてみました。その絵は上にあります。絵は結構素朴だけれど、説明がとても分かりやすいと思いました。こうしたステップ・バイ・ステップの説明は、「最新略画宝典」や「略画の描き方 小学校児童の練習用」など、プランゲ文庫にある他の本にもたまに見つけることができます。
小野寺秋風は主に漫画家とイラストレーターとして働いていたので、「面白い漫画の描き方」という部分もあります。文章も多く、書かれているアドバイスを絵に生かす例もあります。この部分は一番文章が細かく書かれている部分でもあります。始めに狸の写生画と漫画を例に、漫画のポイントは特徴の強調にあると説明されている。そのあと人の顔の描き方が説明されていて、顔の一般的な形、人によって目や鼻や口の形が違うこと、そして人を漫画に描くときはやはり特徴を強調しなければならないことが書いてあります。そのあと、表情のことをちょっと説明して、人によって表情も少し違うことが説明されています。棒人間をつかってポーズのやり方を説明して、終わりに動物、植物、乗り物を漫画に書くとき注意する点が書かれています。
私は小さい頃漫画家になるのが夢で、漫画の描き方についての本を全て読んで、ビデオもできるだけ見ました。なので、「やさしい絵の描き方」には一番大切にしてきたアドバイスの全部が書かれているのを見てとても嬉しかったです。子どもの頃読んでいた絵の描き方を教える本では技術的な説明はありましたが、理論は全然書かれていませんでした。なので、どうやって省略した形を使って「漫画スタイル」の人を描くのを学んだが、それをどうやって本当の漫画に生かすのか、などは学ぶことができませんでした。しかし「面白い漫画の描き方」では理論が中心になっています。段階的な描き方を教えず、表情を強調するのが大事ということ、ポーズの描き方と現実のものを漫画化する方法などの一般的なアドバイスが細かく書いてあります。子どもの時はどうしても人のポーズができませんでしたが、「やさしい絵の描き方」に書かれているテクニックを学んだらそれが変わりました。毎日絵を描いていたときは単体の人だけを描くためにこのテクニックを使っていましたが、「やさしい絵の描き方」の例にある棒人間の図の中で複数の人がいる絵や、馬を乗っている絵とかもあったので、描いてみました。結果はなかなか気に入りました。
図2「やさしい絵の描き方」を見て描いてみた絵
もちろん、「やさしい絵の描き方」の大半はこうした絵のアドバイスではなく、略画の絵手本ですが、この組み合わせこそがこの本の特徴でありプランゲ文庫所蔵の絵手本の中でも目立つ理由です。たいていは、あくまでも「絵の描きかた」についての本か、「略画の絵手本」の本かです。この組み合わせであるのは「やさしい絵の描き方」しかありません。それでも「おもしろい数字の略画帳 動物の巻」みたいな面白い本もあります。この本では数字を使った動物の絵が描かれています。それに、動物の下に英語の名前が書かれています。これは多分アメリカの影響だと思いますが、結構スペルミスがあって、ちょっと面白いと思いました。
図3 “Habibut”(halibut)や“Mandarin ducd” (duck)などスペル・ミス見られる「おもしろい数字の略画帳 動物の巻」
プランゲ文庫の絵手本の中で、「やさしい絵の描き方」以外に、絵の描き方についてきちんとしたアドバイスが書かれているのは一つしかなくて、それは「スケッチの描き方」です。「やさしい絵の描き方」には漫画や挿絵が中心になっているのに対して、「スケッチの描き方」は鉛筆スケッチが中心で、描く対象の形の省略、バランスある構図、シェーディングなどについて書かれています。中心は「スケッチ」なので、色のことはあまり書いていませんがが、最後のページには少しあります。これに対して、「やさしい絵の描き方」にはシェーディングや色の付け方は全然書かれていません。しかし全体的に言うと、「スケッチの描き方」の方が絵手本のところが少なく、アドバイスも狭くてページ数が少ないのです。
表8「スケッチの描き方」
著者曰く、「繪は難しいものだと言ふ觀念を捨てて、繪がやさしく、おもしろく自由自在に描けるやうになることをお祈りして序文と致します。」崇高なゴールと言えますが、細かく幅広い説明を通し、「やさしい絵の描きかた」はプランゲ文庫のどの絵手本より、私たちをその夢の実現に間違いなく近づけてくれます。
[第二部に続く]